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DOMINO調声法解説
こんにちは、ムセキ(@nagoyakampo)です。
趣味で作曲をしていて、過去にはボカロ曲が市販されているゲームに曲が採用されたこともあります(PSP「初音ミク -Project DIVA-」の「猫なキミ」:774P名義)。
また、サブスク等でボカロ曲を配信しています(774P名義)。
今は歌の無いインストゥルメンタルを中心に作曲していますが、昔自分がやっていたボカロ調声について、方法などを詳しく書いておこうと思い立ちました。
今回の記事の内容は、「DOMINO調声法の解説」です。
昔、別のブログで書いたのですが、こちらでもご紹介できればと思い、新たに記事を書くことにしました。本記事は、以下の順番になっています。
DOMONO調声法開発の経緯
DOMONO調声法とは?
DOMINO調声法の準備
声の抑揚をつける
音符分割によるしゃくり上げ
しゃくり上げ
ビブラート作成
データ読み込みと確認&修正
さいごに
僕は普段、DOMINOというMIDI編集ソフトとVocaloid3 Editorを使用していますので、それを使ってDOMINO調声法を解説していきます。
ですが、基本のコントロールパラメーター(以下パラメーター)しか触りませんので、バージョンの違うVocaloid EditorやPiapro Studio等でも適応できます(Vocaloid Editorの1~3とPiapro Studioの使用経験があります)。
少しでもお役に立てたら嬉しいです。それでは、お読みください。
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DOMONO調声法開発の経緯
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昔、僕がボカロを触り出した時に、「もっと上手く歌わせることは出来ないかなあ?」と悩んでいました。
そんな時、「ぼかりす」という技術が発表され、その直後、「ぼかんないんです><」という技術が発表されました。
「ぼかりす」も凄いんですが、その直後に「それってOKだったんですか。」というコメントと共に出された「ぼかんないんです><」には流石に吃驚しました。
簡単にご紹介しますと、これらの調声は実際の歌声のデータを元に、音量や音程の変化をVocaloidに適応させたものでした。
それを聴いた時、「凄い!」と思ったのと同時に「これって、法則化してDOMINO(MIDIエディタソフト)でピッチベンドとエクスプレッションをいじれば再現出来るんじゃないか?」と考え、試行錯誤の末にDOMINO調声法を開発しました。
ですので、DOMINO調声法は簡易的ですが「人間の歌声のデータをパターン化して、シミュレートしたもの。」になります。
それでは、次の段落からDOMONO調声法の内容について、詳しく解説していきます。
DOMONO調声法とは?
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DOMONO調声法は、文字通りMIDIエディターソフトのDOMINOを使用してボカロ調声を行う方法です。具体的には、下記のような歌声になります。
DOMINOで扱えるVocaloid EditorのパラメーターはDYNとPITで、そのままMIDIのエクスプレッションとピッチベンドに対応しています。
ビブラートに関する曲線がデフォルトではDOMINOにはありませんので、数式を使って曲線を描けるように設定します。
設定方法については、次の段落でご説明します。
DOMINO調声法の準備
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MIDIファイルの準備
まずはMIDIファイルを準備します。方法としては3種類あります。
VSQXファイル→MIDI
まずはVSQXファイルをMIDIに変換する方法です。
Vocaloid EditorにはVEQXファイルをMIDI変換する機能はありません。
ですが、SynthesizerVというソフトに一旦VSQXファイルを読み込ませ、MIDI出力することでDOMINOに読み込めるようになります。
もしSynthesizerVをお持ちでしたら、この方法が一番楽です。
DAWから書き出し
次は、Digital Audio Workstationソフト(以下DAW)と呼ばれる作曲ソフトを使用する方法です。
DAWで打ち込んだメロディをMIDIファイルで書き出してDOMINOで取り込みます。
Vocaloid Editorのメロディラインとズレないよう、手動で合わせていきます。僕はこの方法を使っています。
手打ち
上記2つの方法が取れなければ、一から手打ちします。この方法は気合勝負になります。
余分なトラックの削除
メロディが入ったMIDIファイルをDOMINOに読み込みます。
DOMINOにMIDIファイルを読み込むと、余計なトラックも存在することに気づきます。
最初にそれらの余分な無駄なトラックを削除しておくと、後々必要なトラックを探さなくていいので手間が省けます。
ちなみに、上図のようなConductorトラック(テンポ命令の入ったトラック)は削除せず残します。
イベントグラフペインの表示
DOMINOのイベントグラフペインの表示を設定します。
上図(クリックで拡大)のようにイベントグラフペインは上下2つ表示させます(表示→イベントグラフペイン1or2→イベントグラフペイン)。
これは、エクスプレッションとピッチベンドを連動しながら変化させる必要があるためです。
上下どちらでも構いませんが、僕はエクスプレッションが上、ピッチベンドが下になるように表示させています。
曲線式設定
最後に曲線式を設定します。
デフォルトでは理想的な曲線が入っていないので、DOMINOのカスタム曲線機能を使います(上図参照。2番目の図はクリックで拡大)。
以下の数式をセットしてください。
名前:UP 曲線式: (y2 - y1) * (1 - (1 - xf) * (1 - xf)) + y1
名前:DOWN 曲線式: (y2 - y1) * xf * xf + y1
名前:EXP 曲線式: -1sin((x - x1) / res * pi651.2/tempo) * (y2 - y1)/12/(1-xf+0.2) +(y2 - y1) * xf * xf * xf + y1
名前:PIT 曲線式: sin((x - x1) / res * pi*651.2/tempo) * (y2 - y1)/6/(1-xf+0.1) +y1
ちなみに、
ポイント
UP曲線・・・エクスプレッションでの音符立ち上がり
DOWN曲線・・・エクスプレッションでの音符の終わり
EXP曲線・・・エクスプレッションでのビブラート
PIT曲線・・・ピッチベンドでのビブラート
という内容になっています。
声の抑揚をつける
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DOMINOのイベントグラフペインでエクスプレッションを指定していきます。
コントロールチェンジのエクスプレッション値は、Vocaloid EditorのDYNと同じ意味、同じ値を取りますので、
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【ボカロ調声のコツ②】コントロールパラメーター解説【Vocaloid Editor & Piapro Studio】
のDYN値を参考にして頂き、打ち込んでいって下さい。
実際の打ち込みは、カスタム曲線で作ったUP曲線を使って上図のように入れていきます。
1フレーズ指定出来ましたら、次は同じようにDOWN曲線を使って、上記のように線を滑らかになるようつないでいきます。
最終的に、傾いた台形のような形になります。
このように音符の両サイドのエクスプレッションを削るのは、声の出始めと出終わりは、斜めに立ち上がり斜めに減衰する為です。
これは、シンセサイザーのエンベロープ(ADSR)と同じ考え方になります。
エクスプレッションを使って、簡易的なADSRを一音ずつ作っているという訳です。これらの作業を繰り返し、全ての音符にエクスプレッションを指定します。
この作業をしておくと、一音一音はあまり変化が無いように聴こえますが、全体を通して聴くと柔らかさが増して人間の声に近くなっています。
音符分割によるしゃくり上げ
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声のエクスプレッションを指定して抑揚をつけたら、次はしゃくり上げの表現をします。
Vocaloid Editorに一度戻り、主にアクセントが来る箇所で、上図のように音符を分割してポルタメントがかかるようにします。
半音~全音下から16~32分で子音と母音の音符分割を行います。かかり過ぎ防止のために半音下から上げた方が良いでしょう(例は半音下、32分音符で音符分割をしています。)。
これは、ギターのスライド奏法の様に音程が階段状に上げたい場合に使用します。
あまり多用はせずに、所々でここぞというタイミングのみ使うようにするのがポイントです。
以下に聴き比べられるように音声ファイルを置いておきますので、比べてみてください(風「に」、浮か「ぶ」の部分)。
しゃくり上げ
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再びDOMINOに戻って、今度はピッチベンドを使用してしゃくり上げを表現していきます。
上の段落での音符分割はギターのスライド奏法のような音程の変化でしたが、ここでは同じギターのチョーキング奏法という技術と同じような無段階の滑らかな音程変化を指定します。
具体的には、上記の図の様に16~32分音符の間隔でピッチベンドを半~全音下からS字曲線を使用して指定していきます(上図は32分音符)。
全て同じ指定ではなく、所々で変化させて指定していくと生っぽさが出ます。これも使い過ぎに注意します。
音符分割でのしゃくり上げと同じ部分で聴き比べられるよう、音声ファイルを上げています。ご参考下さい(風「に」、浮か「ぶ」の部分)。
最後のピッチベンドを使ってしゃくり上げを作ったものは、次でお話しするビブラートの表現も処理済です。
デフォルト(ベタ打ち)
音符分割でのしゃくり上げ
ピッチベンドでのしゃくり上げ
ビブラート作成
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最後は、ピッチベンドとエクスプレッションでビブラートを表現していきます。
Vocaloid Editorのビブラートでも良いのですが、上手く曲線が設定出来ていないのか、肉声によるビブラートとは言い難い違和感のあるビブラートがかかります。
ですので、そのビブラート機能を切って半手動でピッチベンドとエクスプレッションの数値を指定し、ビブラートを表現するようにしています。
実際の作業は、イベントグラフペインのカスタム曲線(EXP曲線、PIT曲線)よりそれぞれエクスプレッションとピッチベンドを入力します。
付点二分音符以上の長さの音符があった場合に、ビブラートを設定すると良いでしょう。
エクスプレッションは、上図(クリックで拡大)の様にビブラート開始時点のエクスプレッションの値から0に向かって曲線を描いていきます。
0までエクスプレッションを下げたら、次の音符のエクスプレッション値まで予め戻しておきます。
ピッチベンドは、エクスプレッションでビブラートを開始した部分からスタートし、最大で±4096まで振れるようにします。
この時、上図の様にエクスプレッションの上下に合わせるようにピッチベンドも曲線を描くのがコツです。
ピッチベンドを書き終わったら、次の音符が来る前までに0に戻しておきます。ここまでの作業が、DOMINO調声法の全体の流れになります。
データ読み込みと確認&修正
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DOMINO側
DOMINOのDMS形式でもバックアップ保存しながら上でご紹介した方法を使ってデータを作成していきます。
そして、DOMINO側でエクスプレッションとピッチベンドのデータが確定したら、最後にヒューマナイズ処理を行います。
ヒューマナイズ機能は、DOMINO特有のもので、データを細かくばらつかせることでゆらぎを表現しています。
まず、上図のようにイベントリスト上で右クリックを押し、「範囲の選択」で対象となるイベントグラフペイン(コントロールチェンジ)を曲全体に渡って選択します。
次に、上図のようにイベントリスト(イベントグラフペイン)上で黒反転した部分の上で右クリック→ヒューマナイズを選びます。
そして、それぞれ
エクスプレッション:Tick補正「2~-2」、Velocity/value補正「3~-3」
ピッチベンド:Tick補正「2~-2」、Velocity/value補正「100~-100」
の値で処理をかけます(効果が強すぎる時は値を減らしてください)。この処理が終われば、DOMINO側での調声は終了です。
Vocaloid Editor側
Vocaloid Editorで読み込んだ調声済MIDIデータは、ピッチベンドとエクスプレッションがそれぞれ対応するコントロールパラメーターに変化しています。
これらのデータを読み込み、元々の歌唱トラックより「すべてのイベントを選択」で元からあった歌詞の入った音符データをコピーし、読み込ませたトラックにペーストして張り付けます(DYNやPITを選択してコピー&ペーストだと手間がかなり増えますのでご注意ください)。
データのコピー&ペーストが終了したら、一度再生してみて歌声をチェックします。
ヒューマナイズ機能で値を変化させていますので、発音が悪い部分や聴き取り辛い所が出ている可能性があります。それらの部分をVocaloid Editor側でパラメーターを修正します。
また、DOMINOでのデータ編集が出来ないパラメーターについて、
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【ボカロ調声のコツ②】コントロールパラメーター解説【Vocaloid Editor & Piapro Studio】
を参考にして頂きながらVocaloid Editor側で編集して頂けると、より完成度が高まります。
以上で、調声は終了となります。データを書き出して、DAWに読み込んでオケとミックスダウンします。
ちなみに、VSQXデータは、見た感じ上図のようになります(クリックで拡大。パラメーターはDYNを表示しています)。
最後に、DOMINO調声の作例を置いておきます。ベタ打ちのものとオケと混ぜたものも並べておきますので、聴き比べてみてください(例では、しゃくり上げは全てピッチベンドによる指定で処理しています)。
ベタ打ち
DOMINO調声済
オケと混ぜたもの
上の完成品は「The Last Fantasy」という名前でUPしています。以下の記事からDownload出来ます。
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【商用可・無料】ケルト・民族音楽系音楽素材【フリーBGM・youtube・動画】
さいごに
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今回は、僕が開発したボカロ調声「DOMINO調声法」についての解説でした。最初は戸惑うかもしれませんが、慣れれば強力な調声法です。
解らないことがあれば、本記事にて全てご紹介していますので、読み直して頂ければ大丈夫です。
今回の記事が、少しでも作業のお役に立てれば幸いです。それでは、ムセキでした。